【Melancholy】

 

 目的の、家のちょっと手前で停車させた。

 携帯で呼び出した相手は、いつも電話をしてからだいたい十五分ぐらいしてから出てくる。

 やっぱり今日も、しばらく待たされた。

「大丈夫かな。間に合うかな」

 乗りこんでくるなり、そんなことを言う。

 大丈夫だとは思うが、心配ならちゃんと予定した時間通りに出てくればいい。

 こっちは、時間通りにいつも動いているんだから。

「急ぐよ」

 だけどそんな不満は、いつも心の中にとどめる。

 なにかを口にして、機嫌を悪くされるよりはいい。

「暑いな、今日も」

 よく日に焼けた肌に似合いの茶髪をかきあげ、中村賢太(なかむら けんた)はドリンクホルダーにあった飲みさしのウーロン茶を手にとった。

 その動作を黙って見てるオレには気づかず、賢太は口をつけた。

 コクコクと喉を鳴らして飲んでる姿に、心の中で「オレも口つけたんだけど、いいのかな」と思う。

 こんなの、賢太がオレの車に乗るようになってよくある事なのに、まだドキドキする。

「帰りは途中まで啓介さんのナビに乗せてもらおう」

 そんなオレの心を知ってか知らずか、賢太は嬉しそうにそんなことを口にした。

「………それはいいけど、途中までだぞ、多分」

 FDよりも、オレの車のほうが乗り心地がいいはずなのに、賢太は乗りたがってはくれない。

 ガソリン代がないときは、こうして迎えに来るとのってくれはするものの、心はここにない。

 

 

 

 

 

「またケンタを乗せてきたのか?」

「涼介………そんな顔するなよ、オレが言い出したんだ」

 FCを降りて啓介となにやら話していた涼介だが、賢太が啓介のまとわりつくと俺のところに渋い顔でやってきた。

 チームの会合に、幹部でもなんでもない賢太が出入りする事への嫌味もあるらしい。

「……………わかってるならいいが、お前も大変だな、史浩(ふみひろ)」

 啓介と無邪気にじゃれている賢太を見ていたオレに、涼介は苦笑まじりにそう言った。

 涼介にこの胸のうちを明けたことはないが、ぜんぶお見通しなのだろう。

 賢太の想いも、オレの想いも。

 振りまわされて、それでも縋るオレへの同情か。

 従兄弟同士として、ずっとつるんでいるせいもあるが、涼介は聡い。

 あえて口にするつもりはないが、隠す気もなかった。

 だが、それは涼介に限ってのこと。

 啓介はもちろんのこと、他の誰に覚られてもチームの指揮にかかわる。

 涼介は、それを危惧しているみたいだった。

「お前も、な」

 自分だって啓介に懐くケンタをよく思ってないくせにと、少し嫌味を返した。

 涼介は、一見クールでいてその中身はマグマそのものだ。

 いつ噴出してもおかしくないものを、常に腹のうちに飼っている。

 オレからすれば、お前のほうが心配だぞ。涼介。

「……………ま、ケンタの教育係はお前だ。信じてるぞ」

「……………………」

 辛辣な言葉を吐いて、涼介が啓介の元へと帰る。

 涼介が苦手な賢太は、不満を思いっきり顔に出してこっちへと歩いてきた。

「史浩は、涼介さんとよく話が合うな」

 アレを話が合うというのかと笑ってしまったが、そんなことは賢太に言っても仕方がないだろう。

 実際、涼介の仲が悪いわけじゃない。

 啓介のことを除けば、オレたちはいい友人、いいパートナーのはずだ。

「こういう場では、「さん」をつけてくれないか? いつも言ってるだろう」

 ふたりっきりでは、むしろ「史浩」と名前だけで呼ばれることが嬉しいが、まだチームの幹部でもない賢太が外報部長でもあるオレを呼び捨てにするのはいささかマズイ。

 何度注意しても、賢太は忘れているのか、わざとなのかときどき呼び捨てにする。

「いま、側に誰もいねーじゃん」

 賢太がとたんにムッとする。

「誰もいなくても、こういう場では気をつけて欲しい」

 これ以上機嫌を損ねたくはないけど、困るのは賢太自身なのだ。

 それでなくても、事あるごとにオレが庇い、啓介がかまう。

 啓介に気に入られたいのは、チームでも賢太だけではないのだ。

 賢太だって分かってるはずだ。嫌味や嫌がらせは、常。

 それなのに、懲りないっていうか、根性が座ってるというか………。

 初めは、早くチームに馴染んで欲しいと、オレが普通は幹部しか揃わない場にも賢太を連れて行った。

 緊張して、居辛そうにしていた賢太も、いまでは当たり前のように顔を出している。

 だからオレも、強くは言えない。

「賢太………」

 確認するために名前を呼ぶと、賢太はフンと顔をそむけただけだった。

 生意気に見えるその態度が、反感のうちのひとつだということに気づいてるのだろうか。

 オレは嫌いじゃないのその顔を見ていると、いまはため息しか出てこなかった。

 

 

 

「啓介さん、速いっすよ………」

 FDを降りはした賢太だが、名残惜しげに啓介の窓に縋る。

 涼介は、止まることなく走り去っていた。

 オレを信じてる。そう言っていた。

「ほら、ケンタ、行こうか」

 啓介は、賢太を送るぐらいかまわないと言うだろう。

 でも、涼介はかまうのだ。

 見えない独占欲。それは、隠しているぶん強固なものだ。

 オレがそうだから、涼介の気持ちはわかる。

「啓介さぁん………」

「またな。ほら、史浩が待ってるぞ。アイツ、明日仕事だから、あまり連れまわすなよ」

 啓介の口から、「オレが送ってく」という言葉が出なくてホッとした。

 啓介が言い出したら、ケンタは一も二もなくまたFDに乗りこむだろう。

 でもそんなことを許したら、涼介に会わせる顔がない。

「ケンタ!」

 かわいそうでも、賢太はオレが連れて帰らないといけない。

「おやすみなさい………」

 口を尖らせた賢太が、窓を閉めてアクセルを踏んだ啓介を見送る。

 FDが交差点を左折して、見えなくなるまで見送っていた。

「ちぇ! また今日も史浩とか」

 嫌味たっぷりに言いながら、やっと賢太がオレのナビに収まる。

「初めから分かってただろう?啓介とお前が絡むといい顔しない輩が多いんだよ。少しは自覚してくれ」

「その筆頭が………」

「え?」

 ボソッと返した賢太の言葉は、途中から聞き取れなかった。

 相当拗ねているらしい。

 まぁ、啓介の試験が始まることから、賢太は啓介にしばらく会えないことになる。

 それがあるから、拗ねているのだろう。

 一秒でも隣にいたかったと、顔に書いてある。

 そしてオレは、それを引き裂いた悪者だ。

 損な役回りだけど、これも自分で蒔いた種ってやつか?

「むしゃくしゃする。史浩、明日はやいの?」

 チラっと投げてよこした流し目にドキッとした。

 そのしぐさに意味なんかないんだろうが、オレは自分の頬が熱くなるのを感じる。

「べ、別に大丈夫だよ。どこか行きたい?」

 妙に喉が乾いて、オレは何度もつばを呑みこんだ。

 行きに賢太が口をつけた缶はそのままあるが、肝心な中身がない。

 賢太はちょっと考えてる顔をして、そして不意にシートを倒して寝そべった。

 運転してるから、視線を賢太に合わせることができないが、横でねっころがられるとよけいに緊張する。

「オレ、明日バイト午後からだから、今日は遅くてもいいんだ。どっか連れてってよ」

 ちょっと元気がないような賢太の声に、明日の朝のことなど頭から消えていた。

 啓介と会えないことが、けっこう引いてるんだろうか。

「どこがいいんだ?」

 メーターを確認して、ガソリンがまだじゅうぶんあることをチェックした。

 これだけあれば、まぁいいだろうというぐらいはある。

「………どこてもいいけど。ま、とりあえず赤城行こうよ」

「え? 赤城?」

 思わぬところが出て、聞き返した。

 赤城なんて、毎日のように顔出してるところだ。地元だから。

 あえて選ばないと思ったんだが。

「いいから………」

 そう言うと、賢太は目を閉じてしまった。

 賢太が行きたいって言うなら、赤城でいい。

 オレは、そう思って車を走らせた。

 

 

 

「着いたぞ」

「ん………?」

 賢太は本当に寝ていたらしく、車を止めても気づきはしなかった。

 山頂に着いたものの、軽い寝息を立てている賢太の寝顔に、魅入ってしまった。

 そのまま寝かせてもとは思ったものの、一応声はかけた。

 賢太は、眠そうな目をこすりながら、でも体だけは起こした。

「そのまま寝てるか?」

 辛そうに見えてそうたずねてみたが、賢太は首を振って車のドアを開けた。

 車の横で何度か深呼吸して、眠気を覚ます賢太がかわいいみえた。

 オレは、麓で買っておいた缶コーヒーを手に車を降りて、ドアに寄りかかった。

 さっきから、喉がからからだ。

「史浩って、全開走りみせてくれねーのな」

 ニ、三歩歩いて、賢太は振りかえった。

「計測のときも、涼介さんとパソコンいじってるだけで参加しないし」

 明かりを背にした賢太の表情が分からなかった。

「ちょうだい、それ」

 オレが賢太の言葉の意味を測り兼ねてると、賢太はオレの前まで歩いてきて手に持ってた缶をねだった。

「あぁ、コーヒだぞ」

 プルトップを開けて渡してやると、美味しそうに喉を鳴らした。

 人が物を飲んでる様は、なんてエロチックなのだろう。

 賢太がコーヒーを飲む姿に、オレは欲情していた。

「なに? オレの顔まじまじ見て。なんかついてる」

「い、いや………ごめん」

 目がかち合って、オレは慌てて視線を逸らした。

 コーヒーの水分でつやっとした唇が、オレを誘ってるような気がして焦る。

 賢太はそんなつもりでオレを誘ったんじゃない。

 必至でそう自分に言い聞かせた。

「なんだよ。怒ったのか? オレが無理言ったから」

 せっかく外した視線を捕らえられる。

「いや、怒ってないよ」

「なんだよ。びっくりした。史浩って、そんなに怒らないから怒らせたかと思ったよ」

 そう言って笑った。

「賢太………」

 ヤバイと思ったときには、もう自分で止められはしなかった。

「ふ、史浩っ!」

 いきなり手首を掴んだオレの名前を、賢太が小さく叫ぶ。

 それが引き金だった。

 引き寄せて、唇を重ねた。

 賢太はびっくりしてちょっと抵抗したが、かまわずに押し付けた。

 コーヒーのほろ苦さが、ますますオレを止まらなくさせる。

 乾いていたのは、喉だけじゃないらしい。

「ふっ………」

 息苦しさに、賢太が喘いだ。

 そのわずかに開いた唇の隙間から、舌をさし込んだ。

 噛まれるかとも思ったが、賢太はそれをしなかった。

「ん………んっ」

 戸惑う舌を絡めて、その熱を交換する。

 賢太はいつも甘い。その甘さが、オレをどんどん止められなくする。

「………なんだよ、いきなり」

 唇が離れたあと、賢太は少しだけ潤んだ目でオレを見上げた。

「………………」

 いつもこのパターンだ。

 オレは、賢太のそんな表情を見ると「我慢」という文字をこの世からなくしてしまう。

「ごめん、でも………いいかな」

 オレの言葉に、賢太はちょっと眉を動かした。

 こんな事はじめてじゃないから、賢太も察したのだろう。

「オレが好きなのは啓介さんだよ?」

 確認するように、賢太は言った。

 これも、いつものセリフだ。

「わかってるよ。でも………いいかな。その………この前からけっこう経ってるから、たまってるんじゃない?そっちも。それとも、誰かと?」

「そ、そんなこと誰ともしてねーけど………」

「なら、いいだろ? 痛いことはしないから」

 嫌と言わせない、汚い口調だった。

「………こ、こんなとこはやだ」

「わかった。乗って」

 逃れよううとしたのを、そうはさせない。

 文句を言いそうな賢太を置いて、オレは車に乗りこんだ。

 置いてかれたくはない賢太は、渋々ナビに収まる。

「………なんだよ、恐い顔して」

 賢太はボソッとそう言ったが、ここまで盛り上がってしまったものを引っ込める事もできない。

 また、むくれた顔も好きなのは否めない。

 だから、少し強引にでてしまうのか?

 困ったような顔が、やがてあきらめて別の顔へ変る。

 その瞬間がみたい。

「ホテルとかがいいの? それならいいの?」

 麓まで降りて確認すると、賢太は押し黙った。

「ここまで来てだんまりか………」

 ちょっとした苛立ちが、声音に出る。

 賢太は、もっと黙ってしまった。

「どこでもいいってことか?」

「どこへ………」

 車を強引に左へ。賢太の不安そうな声が、もっとあおる。

「行きたいとこ、ないみたいだから………」

 オレがそう言うと、賢太はもうそれ以上言わなかった。

 

 

 

「………ここで?」

 車が止まると、賢太はチラッとこっちを見た。

「嫌とは言わせないぞ。もう………」

 賢太の手を取ると、ちょっと震えてるみたいだった。

 何度かしてても、慣れてないのかもしれない。

「ごめん、だけど、オレも我慢できないんだ」

 車の来ない空き地。

 前に、チームの誰かが「あそこなら、ヤッてても誰も来たりしねーよ。資材置き場だからな」と言っていたのを覚えていた。

 うろ覚えだが、多分ここの事だろう。

 何かの資材らしきものが置いてあるし、ここへくるまで対向車にも合わなかった。

「………史浩」

 握った手を引いたら、賢太は観念した様に目を閉じた。

 口づけは、さっきのように甘くはなかったが、最初から賢太も応えてくれた。

 漏れる息が熱くて、エアコンを効かせてるはずなのに暑い。

「ん………あっ………」

 ズボンの上から触れたそこは、もううっすらと堅くなり始めていた。

「ごめん、つらい?」

「そ、そんなこと聞くなよ」

 上目遣いに睨まれて、ゾクっと来た。

 体勢が辛くて、ナビのシートを倒して賢太を寝かせた。

 でもそのまま賢太をまたぐには狭すぎて、やむを得ずドアを少しだけ開けて、右足は外で踏ん張る。

 賢太の脚の間に左膝をついて、割った。

「辛いのは史浩のほうじゃねーのか」

 そんなオレの苦肉を見て、賢太は笑った。

 笑うと、賢太は幼さが増す。やっぱり賢太には笑っていて欲しい。

「大丈夫だよ」

「ちぇ………あっ………く、くすぐったいよ」

 Tシャツの裾から入れた手を、わき腹沿いに撫で上げると、賢太は身をよじった。

 するっと肩まで捲り上げてしまうと、焼けた肌にぽつっとした突起が顔を出す。

「あっ、史ひっ………!」

 口に含んで、舌ではじくと賢太が腰を浮かしてその刺激から逃れようとする。

 だけど、オレが乗っかっているから逃れる事はできない。

「感じるの?」

 問うと、賢太は違うと首を振った。

 でも、目じりに浮かんだ涙は、そのしぐさと正反対の意味を持っている。

 布ごしに感じる賢太の高ぶり。

 さっきよりも、堅くなってる。

 そのままTシャツを脱がしてしまい、ダッシュボードに投げ捨てた。

 賢太がくすぐったがる首筋に舌をはわせて、その反応を愉しむ。

 賢太は握りこぶしでオレの肩口を叩いて抗議するが、そんなものには応じない。

「史浩っ!」

 焦れたような声が、この狭さだと耳元で囁かれてるみたいに近くでこだました。

 唇に吸いついて、甘く噛んで、舌をつつく。

 賢太は気持ちよさげに目を閉じた。

「ねぇ、オレのも触って」

「え!?」

 戸惑った声にも負けずに、賢太の手をとってさっきから痛いぐらいに張り詰めたものに添わせた。

 オレの手の力で握りこませて、誇示する。

「史浩………」

「賢太の声だけで、もうこんなだ」

 そう言ったら、賢太は真っ赤になってうつむいた。

「賢太は?どう?気持ちいい?」

 左手で触れた胸の敏感な部分。賢太は、まだ首を振る。

 オレは賢太のズボンに手をかけ、外しづらいボタンを外してやった。

「腰あげて、おろせないから」

 賢太は、言われた通りに腰を浮かせる。

 ここまで来ると、賢太はいつも素直に従ってくれる。

 快楽には弱いタイプだと、オレは体で知った。

 口では嫌だと言っても、行為をはじめてしまえばオレにも身を任せてくれる。

 その閉じた瞳の中で、誰を想っているのか思うと胸が痛むが、啓介は賢太の手には入らない。

 涼介がいる限り。

 自分の実らない恋を押しつける変わりに、オレは賢太に少しでも啓介といられる時間を作っている。

 弱みにつけこんで、こんな事をしているオレを、きっと賢太はずっと好きになる事はないだろう。

そう思っているのに、こんなむなしい事をやめられない。

「シャワーも浴びてないのに………汚いよ」

 下着ごとズボンを下ろしてしまうと、賢太は少し嫌な表情を見せた。

「平気だよ。汚くなんてないよ」

 足元にしゃがむことはできないから、オレは身体を外に出した。

 賢太の足首を掴んで左足だけ外に引っ張ると、それだけで十分な空間ができた。

「ふ、史浩っ!っっ………」

 口に含んでしまうと、賢太は抗議の声を呑みこんだ。

 柔らかく唇で挟んで、上下すると腰がピクピクと動く。

「うっ………んん………」

 敏感な賢太は、快感が強いらしく、オレの髪を軽く引っ張ってそこからはがそうとするが、手に力が入らないみたいだった。

「ふ、………ん。あぁ………え?」

 ごそごそと、シートの下の小物いれを漁るのが疑問だったらしく、賢太は少し驚いて上半身を起こした。

「な、なにするんだよ、それ………なんだよ」

 引きずり出したチューブを、賢太が訝しげに指をさす。

「これがあれば痛くないから」

 潤滑剤だった。

 以前、何もしないでしたときに、賢太を傷つけてしまった。

 そんなことはもう二度としたくなかったから、先日街に出たときに用意しておいた。

「やっ!やだそんなのっ!うわっ………冷っ」

 指にすばやく絡めて、賢太のつぼみにあてがった。

「じっとして………気持ち悪いかもしれないけど」

「いや………あっ!やめ………っっん………」

 ついっと滑りにまかせて指を入れてしまうと、賢太は異物感に身体をこわばらせた。

「いきなりは入れられないから、ちょっとだけ我慢して………」

「ひっ………うぁ………」

 なだめるように、指を動かしてやわらげながら、再び賢太のものを口に含んだ。

 前後の刺激に、賢太が起きていられずにシートに背を預ける。

「だっ、だめだよ史浩っ!そんなにしたら………」

「イキそうなの?」

 言ったん口を離してたずねると、賢太はそんなこと口にできないという顔でオレを睨んだ。

「いいよ、一度イッても」

「………れる………」

「え?」

「車、汚しちまうよ」

 ボソッと言った賢太。そんなこと、気にしなくてもいいのに。

 汚れるのが嫌なら、こんなこと車でしていない。

「いいよ。そのままだせばいい」

 そう言ってやって、行為を再開した。

「史浩っ!」

 賢太は驚いて名前を呼んだが、今度は放さなかった。

 賢太は抵抗あっても、オレは全然なかった。むしろ、望んでいた。

「うあっ 」

 短い悲鳴のような喘ぎのあと、賢太の身体がひときわ大きく震えた。

 そして弾き出された、熱い迸りを口内で受けとめる。

 特有の匂いが鼻をついたが、自分のもののように嫌悪感はなかった。

 ちょっと考えたが、そのまま嚥下する。

「史浩っ 」

 賢太はその行為に、すごく驚いたようだけどたいしたことには思わなかった。

「へ、平気なのかよ」

「べつに?」

 ま、確かにこの喉ごしは、好きなやつのじゃなきゃ飲めそうもないけどな。

「ま、まさかオレにもそれしろってんじゃ………」

 賢太の言葉には、苦笑が浮かんだ。

 オレのは飲めない。

 知っていた事だが、実際口に出されるとショックな事もある。

「強要はしないよ。それより、いいかな………そろそろ限界なんだけど」

「うっ………」

 賢太の右膝裏に腕を入れて持ち上げると、賢太は言葉を詰まらせた。

 でも「嫌だ」とは言わなかった。

 それをオレは勝手に承諾と決めつけて、ズボンの中からいきり立ってるものを引きずり出した。

「大丈夫。オレのにもちゃんと塗って、ゆっくりいれるから」

「いたっ………」

 腰をちょっと進めただけで、賢太がこわばる。

 でも、痛みを和らげるために賢太自身に指を絡めて刺激してやると、そのこわばりもゆっくりと解けた。

「入ったよ。まだ痛い?」

「………痛いよ」

 そう言った賢太だが、口調に痛みは感じれなかった。

 恥ずかしがってるだけだと判断して動き始めると、賢太はぎゅっと目をつぶって何かに耐える。

 本当に痛いのかと思ったが、口から漏れる息は熱くて、違うものに耐えているみたいだった。

「うっ………ふ………」

 舌を絡めると、ちゃんと応えてくれる。

 街で恥ずかしい思いをしたかいがあったと、ふと思った。

 男同士だと、やっぱり必要なのだろう。いままでナシでしていたことを、心の中で賢太に詫びた。

「すごい、いいよ。ごめん、俺ばかりいつも気持ちよくて」

「あ、あやまんな………よ………んっ……」

 感じてる賢太をこうしてみていると、動かなくてもイッてしまいそうだった。

 つくづくオレは、賢太に弱い。

 惚れすぎていて、弱くなる。

「ごめん、もうイッてもいい?だめだ………」

 賢太の濡れたまつげに、甘い汗の匂いに、粘膜の熱さに、抑制がきかない。

「あぁっ………んっ………」

 自然と、動きが早まって、あっという間にそのときを迎える。

「うっ!」

 賢太がイッた拍子にオレを締めつけて、その刺激でオレもイッてしまった。

「はぁ………」

 賢太のなかが、ビクビクと痙攣してるのがはっきり分かった。

「………もう、車の中はいやだ」

 賢太は小さく、そうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 もう夜が明ける。

 賢太の家の前で車を止めて、あらためて隣で寝ている顔をまじまじと見た。

 抱いているときは確かに腕の中にいるのに、いまはこんなに遠い。

 手を伸ばせばさわれる距離なのに………。

 啓介。

 賢太に応えられないなら、優しくしないでやってくれ。

 そういうのは簡単だが、賢太を失うのは自分だ。

 それで賢太がオレになびくわけではない。

 啓介に嫌われたら、賢太はチームを辞める。

 それがわかっているから、あともう少しこのまま。

 決着がつくまで、このままでもいいから、隣にいて欲しい。

 いまも未来も、オレと賢太は幸せになれない。

 わかっているけど、今手放せない……………。

 


某走り屋漫画、頭文字●(今更伏字)をしているときに、高橋ちえり名義でちこちこっと書いたものなんですが、原作を知っている人はわかると思う………思いっきりのオリジナル設定。
っていうか、思いっきり「私の書く話」になってます。
★原作を知らない人のための説明★
高橋涼介・啓介兄弟は赤城をホームグラウンドにしている走り屋「レッドサンズ」のメンバーにしてナンバーワン。
史浩はその涼介の片腕のような存在。賢太は味噌っかすだけど啓介にもわりと可愛がられている。
賢太は啓介にあこがれており、いつも弱いくせにあとをついて回ってるんです。
と、そんな感じの原作で。
せつないでしょ。あはは、こんなんよく書いてるんすよね、私。
原作ではぜんぜん脇な人たちなんですけど、好きでした。(いまでもね)
またこの二人の話は書いてみたいうちの一つなんだけど、ちゃんとね、ハッピーエンドで。

2002.03.04

 

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